開業事例インタビュー記事

開業事例~在宅医療と外来診療の両方を手掛ける天王山草野クリニック~

天王山草野クリニック

天王山草野クリニック

▲天王山草野クリニック 院長 草野 超夫氏

京都府乙訓郡大山崎町に、2021年4月、オープンした天王山草野クリニック。JR山崎駅から徒歩8分、阪急大山崎駅からは徒歩3分で、国道や高速道路のジャンクションにも近い立地にあり、今や地域にとって欠かせない存在となっている。「本当に困っている人の力になりたい」という思いから家庭医療専門医となり、在宅医療と外来診療の両方を手掛けるクリニックを開業した草野超夫院長に話を伺った。

困っている患者・家族の力になりたいという思いで開業

 乙訓郡2市1町(乙訓郡大山崎町、向日市市、長岡京市)では唯一の家庭医療専門医(取材時)として2021年4月に開業しました。家庭医療とは赤ちゃんから高齢者まで、どの臓器でも、介護や子育てのことでもなんでも継続的にケアをすることのできる医療のことです。全国でも専門医は700人しかおらず、珍しい存在ですが高校生の頃から父の介護を約8年間経験し、医学生になってからは「困っている患者さん・ご家族の力になる」ことを目指していた私にとって、まさに理想の医師像でした。

 開業について真剣に考え始めたのは家庭医療専門医となった7〜8年目の頃です。医療法人の分院長としてまず経験を積むか、最初から自分で開業かという迷いはありましたが、自分の性格的に一度分院長になってしまうと、患者さんやスタッフへの責任感から抜けられなくなってしまうと思い、後者を選択いたしました。

理念実現のために選んだ在宅+外来診療

 当初から、当院の理念「一. 本当に困っている方の力になる 一. 誠心誠意の対応を心掛ける 一.  患者さんの病気だけでなく、人生に寄り添う気概をもつ」を実現し、経験と能力を地域の役に立てるには、在宅医療を主軸にするのが良いのではと考えていました。とはいえ在宅医療専門というのは、地域を診るクリニックとしてはあまり良くない形だと思います。近くにクリニックがあるのに、来てもらっても診られませんというのは、高血圧を見てほしいとか、がんで通院しているけれど細々したことは近くで対応してほしいと思っている近所の方に門戸を閉ざすことになってしまいます。それでは地域を診ていると胸を張って言えません。そこで現状はマンパワーの問題もあり週3回のみですが外来診療も行っています。

外来では小さな子供から高齢者まで、難病も含めさまざまな疾患の患者さんを診ています。中には将来の在宅医療を見越して当院をかかりつけにしてくださる方もいらっしゃいます。

 在宅と外来の患者さんの件数ですが、在宅は担当医師の午前、午後などの1枠で5件前後、外来は予約制で1人当たりの時間もかけているので、午前中だけで5〜10件くらい。ただ働いている時間の感覚では、在宅8:外来2という感じでしょうか。

 開業場所を大山崎町に決めたのは、自分自身10年近く住んでみて、周りの高齢者から往診、訪問診療、家での看取りがこのエリアでは難しいという悩みを実際に聞いていたからです。自分の体感として訪問診療のニーズがあることはわかっていましたし、ここはとても交通の便が良いことも在宅医療には大きなメリットでした。

 とはいうものの、実際に物件を探す時にはかなり苦労しました。コストを考えるとテナントが真っ先に候補に上がりますが、大山崎町にはクリニックに適したテナント物件がなく、市場に出ている売地も駅から離れており、雇用した際のスタッフの通勤を考えるとそれもためらわれて。そこで尽力してくださったのがスギ薬局グループのクリニック開業支援会社、DCPソリューションのコンサルタントの方です。JR、阪急各駅に近く、また高速道路大山崎インターにも近い立地を理想としていた中で、大山崎町内をコンサルタントの方が自ら歩き回って場所を探し、一般には公開されていなかった空き地を探し当て、地主交渉を行い、私との引き合わせを実現してくださいました。その時に町や訪問診療への思いを率直に話したところ、土地の利用を快諾いただくことができました。

 事業計画作成にあたっても、コンサルタントの方にかなり助けていただきました。在宅医療に力点を置く開業の場合、徒歩圏内の患者さんがどれくらい見込めるかという診察圏の調査に意味はありません。大切なのは、診療圏内の地域ニーズと、医師がどんな患者さんを診られるかです。当院の場合、在宅での腹水穿刺、認知症の症状が強く大変な患者さんなど、他ではなかなか対応困難な在宅患者さんまで診られることと、地域や在宅医療にかける思いなどが伝わって、融資を申し込んだ3つの金融機関全てから審査可決がもらえました。

 訪問診療と外来を両立させるには建物にもある程度の広さが必要です。1階には診察室と院内感染防止のために外から出入りできる予診室、処置室や点滴室、車椅子対応のトイレを設けています。訪問診療でも使用できるエコー、心電図、レントゲンなど準備しました。

補助診断ではございますが、なかなか病院に行って検査を受けられない方には喜んでいただいております。

▲現在、在宅診療は8km圏内に対応。往診用の車も4台備えている

▲持ち運びができるレントゲンは訪問診療で活躍

2階は全てスタッフのための設備となっていて、事務室のほか、卓球台としても使用できるワークテーブルを備えたスタッフルーム、テラス、2つの仮眠室、男女別トイレ、ロッカーなどを設け、健康増進の運動、勉強会なども行なっています。このようにスタッフのための設備を充実させたのには理由があります。私も実際に経験しましたが、心のゆとりがないと患者さんやご家族に笑顔で対応できないと思いませんか? 職場環境を整えたのはそれが理由です。

▲医師、看護師、事務スタッフが全員同じ部屋で仕事をするため情報共有もスムーズ。窓の外はテラスになっており、天気の良い日はここでランチを食べることも

▲卓球台にもなる大きなテーブルを備えたスタッフルームは広々としていて居心地が良い。2つの仮眠室、男女別トイレ、キッチン、冷蔵庫、更衣室も備わる

▲診察室の椅子は医師も患者も同じもの。ベッドも高齢者や子供が使いやすい低めのものを選んでいる

▲発熱者用の感染室には外から直接出入り可能。一般患者さんと完全分離できている。

 

24時間対応の体制構築のため、スタッフをどう集めたか

 開業準備をする中で、コンサルタントの方を筆頭に、さまざまな人との関わりができました。採用はそこからのコネクションがほとんどで、求人情報からの採用は今のところ1名のみです。

 どうやって人を集めるかは重要ですが、もっと大切なのは長く勤めてくれることです。給料はいいけれど、ストレスが溜まるし、やりがいも感じないという理由で、すぐにスタッフが辞めてしまう職場もあるようです。在宅でも外来でも患者さんと深く関われば関わるほど負担を感じ、それが態度に出てしまうことは誰しも覚えがあるのではないでしょうか。そうならないためには、先ほど話したように、職場環境はもちろん、やりがいが必要です。

 当院では看護師さんに夜間待機もしてもらっていますし、緩和ケアに必要な細かいコントロールを行う上で業務上の負荷もかけています。患者さんの年齢も疾患も幅広いので、薬の処方一つとっても業務量が多くなってしまう。それでもありがたいことに、やりがいを感じているから頑張ってくれている。やりがいの源は患者さんの笑顔です。最初の訪問で不安そうだった患者さんや家族が笑顔になっていく、それがうれしい、こんな経験は他ではなかったと何人ものスタッフに言われました。当院は事務スタッフも訪問診療に同行するので、実際に診察の様子を見て、患者さんやご家族と触れ合うことも、やりがいにつながっているのではないでしょうか。

 当院ではケアマネジャーや訪問看護師は雇っていません。院内にそうしたスタッフがいると連携は取りやすいのですが、関係が近くなりすぎると逆に共有がうまくいかなかったり、緊張感がなくなったりしてしまう。そういう現場も実際見てきました。ですから当院は他所と連携するようにしています。通常の訪問看護ではあまり目にしないような、がん末期の患者さんへの麻酔薬の舌下投与、誤嚥性肺炎の患者さんへの抗生剤の点滴などへ対応をお願いすることもあるので、連携先にはその辺の理解を深めてもらうようにお願いしています。

開業後3か月で黒字になりました

 「本当に困っている方を紹介してください」というのが私のスタンスで、そういう患者さんほど、当院の力が発揮できます。開業当初はいくつかの病院を中心にアプローチし、神経難病やがん末期、精神的に不安定な方など、在宅で本当に困っている患者さんを紹介していただきました。そこで一緒に関わったケアマネジャーさんや訪問看護ステーションから、「この患者さんもお願いできませんか」と、どんどん広がっていったのです。

 これは予想外だったのですが、そうやって患者さんを紹介されるスピードが思ったよりも速かったですね。それだけ地域の中で困っている方が多かったこともありますし、コロナの影響があったのかもしれません。今はコロナ禍で面会がなかなかできませんから、「それなら家でみたい」と、在宅医療を選択したケースが例年より増えたのではないでしょうか。人員を拡張して訪問ペースを上げないと、地域ニーズに応えられないような状況です。

 おかげさまで、開業3か月で黒字になりました。開業前には保険点数もかなり調べて、どれくらいの患者さんを診れば人件費が賄えるかなど細かいところまで計算し、1年くらいで黒字転換しようという目標だったのですが、かなり早く達成できました。自分がやりたいことをして、患者さん、ご家族・スタッフの方々にも喜んでいただき、経営面でも順調なのはまさにWin-Winでありがたいと思っています。

 在宅と外来を両立する上での最大の苦労は、やはり人的なところでしょうか。医師1人だと大変だったと思います。夜間は私のみで対応していますが、今は2名体制なので、なんとかなっています。

 社会状況の変化が昔に比べると飛躍的に速いので、10年後の医療ニーズは読みにくいところはありますが、家に居たいとか、苦痛なく過ごしたいという患者さんの希望はそこまで変わらないと思っております。今後は分院の開設や連携先を増やすなどして、事業を拡大することも十分あり得ます。例えば一緒に働く医師が、診療の質を重視するというやり方をここで共に学んだ後で開業し、困っている人や地域の力になってくれるなら、とてもうれしいですね。そういう意思がある人はできる限りバックアップし、惜しみなく支援するつもりです。

▲「本当に困っている人は思ったよりたくさんいます」と草野医師は語る

開業前に考えたい3つのこと

 在宅医療の開業となると、365日24時間体制が心配な方もいるでしょう。看取りも含め、患者さんからは呼ばれるものだということを生活の場で受け入れる覚悟は必要だと思います。ただそこで負荷がかかりすぎると燃え尽きてしまいますから、疲弊しないためにも1人の医師が全部背負うのはやめた方がいい。連携先を確保したり、院内でチーム作りができてからの開業がベストだと思いますね。最初は1人ということなら、在宅の患者さんの数を絞ることも視野に入れましょう。ただ、そのような姿勢だと地域から信頼を得るのに時間がかかることも覚悟しておく必要があると思います。

 人脈作りも忘れてはいけません。私はコンサルタントの方から、物品や物流のこと、設計や建築のことなど、それまでほとんど知らなかった世界の方をたくさん紹介いただいて、とても助かりました。

 開業を目指す医師に伝えておきたいのは、自分が何をしたいのかを3つの点でしっかり考えるということ。1つは医療。医師としてどういうことがしたいか。もう1つは家庭。家庭人としてどうしたいか。最後の1つが将来。10年後にどうなっていたいかというイメージがあるか。この3つを考えて、それに向かって進んでいくと決めれば、開業後に混乱することも少なくなると思います。

 開業に向けて在宅医療や臓器専門医としての研修を重ねることも必要ですが、それよりも開業後何をしたいかをしっかりイメージすることのほうが重要。在宅医療は「患者さんを中心に、医師やその他のスタッフが輪になってサポートする」というイメージですが、実際にはまだまだ「医師が上で、患者さんやスタッフは下」という意識を持つ患者さん、ご家族、医師がまだまだ多くいます。また、医師の指示は絶対守ってくれるもの、という勘違いもあります。実際の現場にでたら、服薬指示を守ってもらえないことなど日常茶飯事です。患者さんやご家族との関係性を作り、納得していただいた上で治療に取り組まないと破綻してしまうケースは非常に多い。失敗や経験、体験から素直に学ぶという姿勢を忘れないでほしいですね。

 最後に、私が新しく出会った方によく言っているのが「この仕事、ワクワクしますか」ということ。ワクワクは強いです。もちろん現実に裏打ちされたワクワクですけれど、今だけでなく、10年後も20年後もワクワクが続いて夢を語ることができれば、その思いがいろんな方面に広がって、協力してもらえるのではないでしょうか。この記事を読んでいただいている方がそれぞれの夢に向かっていく、その手助けとなることができれば幸いです。

取材・文/清水真保 撮影/貝原弘次

■プロフィール
草野 超夫(くさの たつお)
2011年 京都府立医科大学医学部医学科卒業
2011年 京都民医連中央病院初期研修開始
2013年 京都民医連中央病院初期研修終了
2013年 京都家庭医療学センター 家庭医療研修開始
2018年 京都家庭医療学センター 家庭医療研修終了
2018年 家庭医療専門医・指導医取得
2019年 医療法人おひさま会 おひさまクリニック西宮
2021年  天王山草野クリニック開院

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