開業医のためのクリニックM&A
廃院にかかるコストは1000万円以上
第3回目のテーマは「廃院にかかるコストは1000万円以上」です。
廃院をおすすめできない大きな理由のひとつは、廃院にかかるコストです。継承対象となるクリニックの規模や診療科目にもよって差がありますが、トータルで1000万円以上になることもあります。
廃院にかかる費用は次のようなものがあります
・登記や法手続きなどの費用
個人事業でも医療法人でも、各方面に届出が必要です。従業員を雇用している事業所では、社会保険や雇用保険や労災保険の手続きが必要になります。
・医療機器や薬剤など医療廃棄物の処分費用
使用していた医療器具や残った薬剤などは、医療廃棄物として専門業者に処分してもらいます。
・医療機器検査機器などの処分費用
CTやMRIなどの検査費用は、中古品として業者に買い取ってもらうことができます。しかし、老朽化している場合などは、廃棄せざるを得ません。リース残が残っている場合は、その清算も必要です。
・建物の取り壊しや原状回復の費用
クリニックが建物を借りて診療していた場合は、建物を元の状態に戻して貸主に返さなければなりません。建物が自前であっても、借地の場合は建物を取り壊して返還することになります。
・従業員の退職金
雇用していた従業員を解雇するにあたって、退職金を支払うことになります。
・借入金の残債の清算
クリニックに借入金がある場合は、清算しておく必要があります。
双方にお得なM&A
売り手にとってM&Aは、廃院コストがかからないだけでなく、クリニック譲渡による利益を得ることができます。
医療法人になっていない個人クリニックをM&Aで承継する場合は、旧経営者が個人名義で所有している不動産(クリニックの土地建物)や設備、医療機器などを新経営者に譲渡するかたちをとります。
仮に不動産などの価値が全部で1億円であれば、新経営者から旧経営者にその対価が金銭で支払われます。このとき、譲渡益が5000万円とすると、その5000万円に対して所得税・住民税がかかります。(5年以上所有した不動産の譲渡益に対する課税は、一律20%の分離課税です。)つまり、手取り9000万円が旧経営者の懐に入ってくることになります。
旧法の医療法人のクリニック(持ち分あり)をM&Aで譲渡する場合、厳密には、旧法の医療法人のままで譲渡するスキームと、新法の医療法人に組織変更した上で譲渡するスキームがありますが、ここではより一般的である前者のスキームで行うものとします。
旧法の医療法人の譲渡は、旧経営者から新経営者への出資金の譲渡をもって行われます。仮に出資金の評価は1億円、当初出資した金額が5000万円とすると、新経営者から旧経営者に1億円が支払われることで所有権が移行します。このときも、譲渡益5000万円に対して20%の税金がかかり、旧経営者の手元には9000万円が入ってきます
このスキームの場合、出資金の譲渡をする前に経営者に退職金を支払うのが普通です。出資金は一般法人でいうところの株式に該当し、業績の良いクリニックだと評価が高くなってしまいます。2億円3億円と高額になってくると、新経営者の側も出資金譲受のための資金繰りが大変です。そこで、プールされている利益を退職金というかたちで支給し、持ち分比率を下げてから譲渡する、という手順を踏むのです。