開業医のためのクリニックM&A
クリニックM&Aのベストタイミングを見極める
第5回のテーマは、「クリニックM&Aのベストタイミングを見極める」です。
クリニックM&Aを成功させる秘訣のひとつは、「理想のタイミングを見計らい逃がさず実行する。」ことです。
開業医の先生向けにセミナーを開催すると、いつM&Aを決めるのが正解かを聞かれることがあります。例えば「民間企業の定年と同じ65歳」とか「借入金の返済が終わったとき」とか「収益がピークのとき」などといった、すべての人に当てはまる共通の答えはありません。唯一言えるとしたら、人それぞれにベストなタイミングあり、それをあらかじめ考えておくことが開業医の課題だと言えるのでしょう。
何歳まで開業医を続けたいかは、人それぞれ違います。同じ50歳の開業医でも経営からは早めに手を引き、医業に専念したい人もいれば、自分の采配で動ける開業医が性に合っているから、できるだけ長く続けたいという人もいます。
大切なのは、自分が理想とする継承のタイミングを前もって考えておくことです。人生を先まで見通してライフプランを立て、それに合わせて「継承どき」を決めるのです。そして、そこに照準を合わせて様々な準備をし、機を逃さずに実行することが、最も安全で確実かつ理想的なM&Aのやり方です。
ただし、実際のM&Aにかかる期間は、約1年から2年ぐらいかかります。だからといって
売りたい1年から2年前に始めればよいというものでもありません。すでに承継が差し迫った状況なら仕方ありませんが、前もって考えられるのにかかわらず放置しておいて、いざ1年後には必ず売りたいというのは少し無理があります。
また、継承後において医師として働き続けたいとの希望をお持ちの先生もいます。働き続けることがネックとなってM&Aを躊躇される場合もありますが、前院長が当面の間、勤務することも双方の合意があれば十分に可能となります。実際に、第3者に承継したクリニックで、継承後も定期的には働いている場合も多くあります。
患者さんの心理としては、やはり長年なじみの前院長がどこかにいてくれているのは、安心感につながります。常連の患者になるほど、私の体のことを一番よく分かってくれていれていると信頼しているのです。死ぬまで面倒をみてもらうつもりの高齢患者もいるはずです。かかりつけ医は、身近な存在だけに、患者にとって精神安定剤的な役割も果たしていると思うのです。
また、新院長にとっても学会への出席や、病院と連携のために本来であれば、休診しなければならない時も、ピンチヒッターがいることはとても心強いものです。
「備えあれば患いなし」の諺のように、理想的なM&Aを実施するためには、承継を希望する先生が、まずご自身のご家族へ相談が必要になります。家族の誰しもが、収入が途絶えることには不安を抱えるものです。ご家族への説得のためには、M&Aのしっかりした計画を示す必要があります。
ご自身の希望を叶えるためには、関わる人たちへの配慮が不可欠なのです。