開業医のためのクリニックM&A
開業医は8割から9割が後継者不足
開業医のためのクリニックM&A
岡本雄三税理士事務所の新美です。今回のシリーズでは、最近増えてきているクリニックのM&Aについてわかりやすく解説していきます。
第1回のテーマは、「開業医は8割から9割が後継者不足」です。
開業医が抱える重要な問題として「クリニックの後継」があります。第一線を退くことを決断したときに、真っ先に考えるのは事業継承でしょう。しかし、望む通りの継承ができるクリニックはほんの一握りで、むしろ思うような継承がかなわない例のほうが多く存在します。
開業医は、高齢になっても現役を続ける人が多いですが、継承する相手がいないから仕方なくという理由で、ずるずると続けてしまうケースも多く見られます。
なぜそんなにもクリニックの継承が難しいかというと一番の障害となるのが後継者不在の問題です。帝国データバンクの調査では、無償診療所の9割、有床診療所の8割が後継者不在となっています。医療機関の後継者問題は、それほど深刻なのです。
後継者不在には、ふたつのパターンがあります。
ひとつは、「後継者になり得る、医師資格をもった子や親族がいない」パターンです。クリニックの継承が一般企業よりも困難になりがちなのは、継承する相手が医師免許を持った人物でなければなりません。医師になるためには、医学部に入学しなければなりませんが、年々受験競争はエスカレートし、競争率は高くなる一方です。
医学部の競争率が高いということは、それだけ医師になれない人物が増えるということでもあります。昨今、マスコミを賑わした医学部不正入学事件もその一端でもあります。
さらに、ますます医師になりにくくなる可能性のひとつに2023年問題があります。これは、米国・カナダ以外の医学部出身者が米国で医業を行う資格を審査する機関(ECFMG)が「2023年以降は、国際的な認証評価を受けた医学部の出身者しか申請を受け付けない」と宣言したのです。多様な国の医学部出身者が集まる米国で、医師の質を担保するためのものですが、この流れを受けて各大学の医学部が国際基準に合わせ、臨床実習を増やす、実技を評価するなどの仕組みづくりを急ピッチで進め始めています。知識だけでなく医師としてのスキルを備えた「現場ですぐに活躍できる力量を持つ医師」だけを選りすぐって世に送り出すためです。
これはつまり、医大や医学部に入っても医師になれないあるいはなるまでにこれまでよりさらに時間がかかる学生が増える可能性も示唆しています。親子間でのクリニック継承は、今後ますます難しくなっていくでしょう。
次に子や親族に医師はいるが、クリニックを継ぎたがらない」パターンです。身内がクリニック経営で苦労する姿を間近で見ていると、それを見ている側は、開業医というものに夢や希望が描けず、むしろ親のような苦労はしたくないと敬遠してしまいがちになります。また、開業医よりも勤務医のままのほうがリスクも少なく楽だと考えて、親からの継承を拒否する場合も多くあります。